最近、副業を解禁にしている企業が増えてきています。しかし、そのほとんどは大企業であり、中小企業ではあまり進んでいないのが実情です。
2022年に経団連が行ったアンケートでは、副業・兼業を「認めている」または「認める予定」と回答した企業は、常用労働者数が5000人以上の企業では83.9%となっています。しかし、常用労働者数が100人以下の企業では、42.1%に止まっており、大企業との格差が明確に表れています。
こちらの記事では、中小企業が、副業を解禁することによるメリットと留意点について解説をします。
参考:一般社団法人 日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケート調査結果」
副業解禁の背景
そもそも日本には、民間企業の場合、従業員に副業・兼業を制限する法律は存在しません。裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であることが示されています。
2018年に、厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成しました。
それに伴い、モデル就業規則が改定され、「許可なく他の会社の業務に従事しないこと。」という規定が削除され、副業・兼業についての規定が新設されました。
そして、政府の働き方改革の実現に向けた取り組みの中に、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」という項目があります。
その一環として、企業の副業解禁が含まれていると考えられます。
また、労働市場の流動化や、個人の価値観の変化といったことも、副業を解禁にする動きを加速させています。
副業解禁の現状
冒頭に記載した通り、経団連のアンケート調査では、大企業を中心に副業解禁の動きが広がっています。しかし、企業の規模が小さくなるほど、副業を解禁している企業の割合が少なくなっているのが実情です。
そして、株式会社マイナビが行った、2025 年卒 大学生活実態調査(6月)の結果では、66.0%の学生が「就職後の副業」を検討していると答えています。
大企業では、副業の解禁が進んでおり、就活生の半数以上は就職後に副業をすることを望んでいるというのが現状であることがわかります。
こういったことが、就活生の大手企業思考が強まっている原因の一つとなっているのです。
参考:株式会社マイナビ 「マイナビニュース」
副業解禁のメリット
それでは、副業を解禁することによって、どういったメリットがあるのでしょうか。企業側と従業員側の、双方向から考えてみます。
企業側から見たメリット
就職後に副業をしたいと考えている就活生が増えているという事実からもわかる通り、副業を認めることで、優秀な人材を獲得することができます。
また、副業を認めていることは、ポジティブな企業イメージにつながり、PR効果も発揮されます。
そして、従業員の副業で得たスキルが、本業で活かせる可能性を期待することができます。従業員が副業で得たスキルや専門知識が、本業の改善などにつながれば、企業側としても大きなメリットがあります。
従業員側から見たメリット
従業員側のメリットとしては、先ず、収入を増やすことができるということがあげられます。これは分かりやすいメリットで、本業以外の収入を得ることによって、ゆとりのある生活を送れるようになります。
また、異なる業界の経験を積むことによって、本業では得ることのできないスキルを身につけつこができ、従業員自身の成長につながります。
そして、副業を通じて様々な人と出会う機会が増えることによって人脈が広がり、ビジネスチャンスや新たな情報を得るきっかけになります。
新しいことに挑戦できることでモチベーションが向上し、仕事への意欲が湧き、本業のパフォーマンス向上にもつながります。
副業解禁の留意点
副業を解禁することによって、企業のイメージアップや従業員のモチベーションアップといったメリットは多くありますが、逆に留意すべき点もあります。
留意点についても、企業側と従業員側の両側から見ていきます。
企業側から見た留意点
企業側が、最も留意すべき点は、従業員の労働時間の管理です。従業員の労働時間は、本業と副業の合算で管理する必要があります。本業と副業の合算で、所定労働時間を超えた場合、従業員に割り増し賃金を支払う必要があります。そういった点から、労働時間の管理は煩雑になります。
また、従業員の副業を認めると、情報漏洩や利益相反といったリスクが高まります。従業員の情報漏洩や利益相反といった行為は、企業に思わぬ損害を与える可能性があります。
そして、副業で経験を積んだ従業員が、身につけたスキルともっと活かしたいという気持ちが生まれ、離職の引き金となってしまうということも考えられます。
従業員側から見た留意点
従業員側から見ても、労働時間が増えるということは留意すべき点です。過労などによって本業の業務のパフォーマンスを落とすようなことは避ける必要があります。本業に業務に支障が出るようであれば、副業はすべきではないでしょう。
また、情報漏洩や利益相反によって本業の企業に損害を与えるような行為は、副業に限らず、留意すべき点です。
そして、副業で従事する業務内容が、自分の長期のキャリアプランと整合性が取れているかということを、よく考えるということも留意点の一つです。
副業解禁の懸念点とその対策
副業を解禁する企業は、まず就業規則の改定が必要です。厚生労働省が作成している、モデル就業規則の規定例や解説を参考にして、各事業場の実情に応じた就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届出をします。
従業員の労働時間の管理に対しては、副業を希望する従業員からの事前の届出により、副業・兼業を把握するように労務時間の管理を行うことを推奨しています。
届書には、副業先の事業所名や、副業する所定労働時間などを明記します。届出書の書式についても、厚生労働省の様式例を参考になります。
情報漏洩や利益相反のリスクについては、副業だけに限ったことではありません。普段から従業員に対して、コンプライアンスに関する教育を行なっておくべきです。
副業を促進していく上で、仕組み作りは重要です。特に労務時間の管理については、厳密な管理と従業員の理解が必要です。
中小企業が副業を解禁する可能性
時間外労働の削減や有給休暇取得の促進などは、大企業だでなく、中小企業も取り組んでいる施策であり、今や当たり前となっています。しかし、副業を解禁している中小企業は多くありません。
中小企業にとって、副業の容認は、中途採用をする場合に大きなチャスであると言えます。
企業側、従業員側ともに、留意点をよく理解した上で、副業の解禁を押しすめていただけることを期待しています。